要介護者の粘膜ケア
高齢者に対する口腔ケアは、今後の歯科サービスにとって大きな領域になりつつあり、今までの歯と歯肉中心の歯科治療から、気道感染予防、メンタルヘルスなど全身健康を視野に入れたケアへと大きく転換しようとしています。この特集は、東京都立東大和療育センターの歯科衛生士・水上美樹さんのご協力のもとに、高齢者歯科の問題点やフィールドでの高齢者のオーラルケアについてご紹介していきます。
生きがいと健康に直結する高齢者の口腔ケア
介護が必要な高齢者の場合、下記に示すような何らかの薬剤を服用していることが多く、それが原因で唾液の分泌が減少し、口腔内が乾燥することがあります。
- [ 唾液分泌低下をきたす薬剤例 ]
- 抗不安薬、マイナートランキライザー、三環系抗うつ剤、抗コリン剤、抗痙攣剤、下痢止め、制催吐剤、
抗パーキンソン剤、抗炎症薬、鎮痛剤、降圧剤、利尿剤、気管支拡張剤、その他
唾液が少ないことで、口腔内の自浄作用が低下するため口腔清掃を怠ると、頬粘膜、歯肉、舌などの粘膜全体が白く覆われます。
この原因の一つが、微生物が繁殖して形成したバイオフィルムです。バイオフィルム内部には歯周病菌や微生物が共存しており、微生物の分泌物が粘着、増殖を繰り返して構築・成長し、時間と共に除去が困難となります。
もう一つの原因はカンジダ菌(C.albicans)の感染によるものです。この菌は30〜40%の人の口腔常在菌で、体の抵抗力(免疫・感染防御機能)の低下や、カンジダ菌に無効な抗菌薬を長期に投与された場合に生じます。症状は白っぽいコケのようなものが舌や頬、唇、時には歯肉などに発生します。表面にカビがついているだけなので指でひっかくと取れますが、その痕は細菌に侵されているため、表面が赤くなっています。治療にあたっては、まず口腔内の乾燥を予防し清潔に保つこと、そして口腔カンジダ症に効果のあるうがい薬や塗り薬を使用することです。
高齢者に多くみられる嚥下が困難なケースでは、口腔内の微生物を食物や唾液と共に誤嚥することで、誤嚥性肺炎の原因となることはご存じの通りです。口腔内を清潔にすることで、口腔内細菌を減らし、呼吸器感染を予防します。また、粘膜ケアによって粘膜や舌の感覚がよみがえり、「食べる楽しみ」という生きがいを取り戻すことにもつながります。特に食前の口腔ケアは唾液の分泌を促すとともに、口腔周囲の筋のストレッチにも効果的で、誤嚥の予防にもなります。
介護度の高い高齢者の中には、歯磨きを嫌がったり顎のコントロールが困難なケースが少なくありません。口腔内に入れた介護者の手指や歯ブラシを噛むことがあります。咬反射や認知症による場合、非常に強い力で噛むため大けがをする場合もあります。そのために、開口を保持するための開口器が有効となります。
歯がない、口から食物を摂取していない、歯ブラシを嫌がるなどの理由で口腔内の清掃をしないと、頬粘膜や歯肉、舌にプラークや食べかすがこびりつきます。このような場合には、脱脂綿を割りばしの先に丸めガーゼで覆う綿棒に代わり、プラークを掻き取りやすい形状にカットしたスポンジに柄がついたスポンジブラシを使うと、粘膜を傷めることなく口腔内清掃ができます。
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